千葉県保険医新聞2019年4月10日号(第687号)

全職員へMRワクチン接種実施の病院に聞く
医療機関の感染予防対策は

 
 麻疹の感染が拡大している。麻疹は空気感染し感染力が極めて強く、「麻疹の免疫がない集団に1人の発症者がいたとすると、12~14人の人が感染する(国立感染症研究所 麻疹Q&Aより)」とされているように、同じ空間にいただけで感染するリスクがある。このため、麻疹感染を予防し感染拡大を防ぐためには、予防接種による抗体獲得が何より効果的だ。麻疹感染者の来院が予想されるため、医療機関における感染予防対策は極めて重要といえる。


▲「年齢群別麻しん累積報告数割合」でみると、20~29歳が最も多く28%、次いで30~39歳が23%。この年代で全体の半数を占める。
※感染症発生動向調査(19年3月13日現在)をもとに作成

 
 千葉市緑区にある「医療法人社団淳英会おゆみの中央病院」では、昨年度、麻疹又は風疹の抗体価が低い職員がMRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)の接種を希望する場合に、本人の負担なしにワクチン接種を実施した(費用は法人負担)。
 「良かったですよ」と、当該事業実施について統括事務長の増田貴之氏が振り返る。同病院では、パート職員も含む全ての職員が入職時の健康診断で、麻疹・風疹の抗体価検査を受けている。その結果、抗体価が低い職員には従前よりワクチン接種を勧奨してきた。これは国立感染症研究所感染症疫学センターが示す「医療機関での麻疹対応ガイドライン(第六版:暫定改訂版)」に沿った対応であるが、残念ながら接種行動にはなかなか結びつかなかった。そこで、病院側が必要分のMRワクチンを購入し、希望者には無料で接種するとしたところ、利便性の高さもあり対象者の9割以上が接種を済ませることとなった。

病院事務長、看護部長にお話を伺う

  先の増田氏の言葉は、この結果を受けてのもの。「千葉市等、接種費用の助成制度を設けている自治体もありますが、そうした自治体以外に居住する職員も多くいます」との状況があり、独自に助成を行ったことが、等しい接種機会を全従業員に提供することにつながった。今回は、外部で接種した場合も費用助成の対象とした。積極的な接種促進策に反対の声はなく、事業主側が接種を受けやすい環境を整えたことで、多忙な中でも従業員が接種を受ける行動につながったと言えよう。
 看護部長の花澤美枝子氏によると、接種を受ける機会の無かった男性のみならず、女性にも抗体価が十分ではない職員が少なからずいたとのこと。接種歴を確認するものの、正確に接種歴を把握することは難しく、「罹患した」という記憶もあてにはできない。そのため検診項目には麻疹・風疹の他、ムンプス(おたふく風邪)なども盛り込んでいる。昨年度はじめの麻疹の流行を受け、保健所や医師会などからの注意喚起が行われたことが対策を進めるきっかけとなったが、速やかな実施の陰には先進的な検査項目追加の取り組みがあった。 
 医療安全や院内感染防止の取り組みにおいては、他の医療機関や連携医療機関と情報交換する機会もあるそうだが、多くの医療機関ではMRワクチンは個人に対する接種勧奨に留まっていた。そんな中、他の医療機関で患者からスタッフへの麻疹感染事例が生じたとの情報があり、「やはり速やかに対策しなければ」と決断。院内の運営会議に提案し、承認を得たそうだ。
  インタビューを通じて、増田氏も花澤氏も、「必要なことをやっただけ」という姿勢で、「特別なこと」という意識はあまり感じられなかった。しかし、やるべきことを速やかに実践することが、なかなか難しいことであることも事実だ。「この取り組みについてお話しすることで、少しでもお役にたてるのなら」と時間を割いてくださったお二人。最後はしっかりと胸を張って写真撮影に応じて下さった。


▲インタビューに対応いただいた増田氏と花澤氏(右から)