千葉県保険医新聞2021年10月10日号(第740号)

トリチウム学習会を開く 
海洋放出の影響と問題点とは

  2011年の東日本大震災により発生した福島第一原子力発電所の炉心溶融事故後、炉心冷却に使用された冷却水および原子炉建屋内に流れ込む地下水・雨水は、トリチウムを除く放射性物質を除去し、一部は冷却に再利用されるが、残りは現在も東電敷地内のタンクに貯蔵されている。
 今年4月、政府はそのトリチウムを含むALPS処理水を希釈して海洋放出することを決定した。協会ではトリチウム水そのものの影響と、海洋放出の問題点を学ぶべく、2回にわたり学習会を行った。

風評被害防止のため陸上保管を(岩井孝氏) 

 8月19日の講師は、日本科学者会議原子力問題研究委員会委員長、核・エネルギー問題情報センター常任理事の岩井孝氏。岩井氏ははじめに、トリチウムを含む処理水が増える仕組み、および国の放出基準を解説したうえで、国が定めた放射線を放出する同位元素の数量等の規定に基づき、1ℓあたり1Bq(ベクレル)のトリチウム水を毎日2ℓ、1年間経口摂取した場合でも内部被曝は0・000013mSv(ミリシーベルト)と示した。
 「トリチウムは非常に弱いエネルギーのβ線を放出するが、水素(H)、重水素(D)、3重水素(T:トリチウム)はいずれも水素の同位体で、自然界にはH・D・Tが混ざった状態で存在。水としてはHTOとして存在し、HTOは水そのものなので生物濃縮は起こらず、OBT(有機結合型トリチウム)でも生物濃縮は起こらない。内部被曝は非常に小さい」とした。
 しかし、風評被害の観点から、原発敷地外に未利用の土地が存在しており、そこでのタンクの陸上保管継続を訴えた。また、地下水流入を防ぐため、原子炉建屋地下を覆う構造物による「地下ダム」設置を提案した。

海洋放出による環境への影響は必須(西尾正道氏) 

 9月16日の講師は北海道がんセンター名誉院長の西尾正道氏。西尾氏は永らく小線源治療に取り組んできた経験から、放射線は当たったところに限局して影響が出ることを解説。内部被曝は近傍の細胞が被曝することであり、局所の細胞に当たる線量で計算すべきだが、Svを用いて全身に均一に被曝すると仮定して線量を評価していることで「内部被曝を超極小化している」と訴えた。
 換算に用いられる放射線荷重係数、組織荷重係数は実証されていないことも指摘。トリチウム排出基準の6万Bq/Kgの1%がOBTとして取り込まれた場合、600Bq/Kgであり、同じβ線を出すセシウム137被曝による多臓器不全で死亡した人の臓器のセシウム137濃度(200~500Bq)を超えるとした。
 また、マウス実験データや海外の研究結果を提示しながら、トリチウムは新陳代謝や細胞の再生過程で炭素と結びつき、OBTを形成する傾向を持っていること、脂肪組織に長く蓄積されることから生殖器や脳への影響が大きいことも強調。DNAや遺伝子内へ組み込み、元素変換によりDNAを損傷させる仕組みについても解説した。
 さらに原発周辺で確認されている健康被害のデータも示し、国の現行の排出基準については致死線量に近く、環境濃縮・生物濃縮が起こること強調した。


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