厚生労働大臣 加藤 勝信 殿
8月10日の中医協総会は患者によるマイナンバーカードの健康保険証利用(以下、マイナ保険証)促進のため、療養担当規則を改正し、2023年4月からオンライン資格確認の「原則義務化」を明記し、これに伴う診療報酬上の加算(医療情報・システム基盤整備体制充実加算)を答申。9月5日に療養担当規則の改定を告示した。
今回の10月からの診療報酬の見直しでは、通常の保険証の場合は初診時に4点加算、マイナ保険証の場合は2点加算となった。持参する保険証によって診療報酬の格差を設けることは国民の受療権を侵害するものである。また今年4月に実施された加算を期中で改定することで医療現場には混乱が生じ、患者の意思はでなく受診する医療機関の体制によって自己負担が増えることも断じて容認できない。ましてやオンライン資格確認の導入に多額の費用、維持費がかかるが、小手先の加算で到底対応できるものではない。
当会には、既にシステムを導入した会員から「資格確認ができない」「最新の情報になっていない」等の相談が相次いでおり、厚労省は過誤請求や手入力による手間等の事務コストの削減を謳うが過誤請求は全く解消されず、むしろ事務負担が増えている有様である。
骨太の方針2022ではオンライン資格確認の原則義務化と保険証の原則廃止を目指す方針が示された。現行の保険証による資格確認は国民に定着し、患者・医療機関側も何ら不便を感じていない。マイナンバーカードの取得も「任意」であり、国民に浸透しているとは言えない。マイナ保険証による受診を患者に強要することは、マイナンバーカードの取得義務化にも繋がり、先の「任意」と矛盾する。患者や医療現場の声を無視し、重大な事案を閣議決定に基づき推進することは手続き上でも違法であり、断固許されない暴挙である。
海外では個人番号制の国もあるが、情報漏洩や紛失などのリスク、セキュリティ体制には厳しい監視体制や罰則もあり、個人情報へのコントロール権が担保されている。しかし、日本ではこのような前提がないまま義務化を強行しようとしている。現在のオンライン資格確認導入の進捗は診療所で2割、2023年3月時点で6割前後とされ、同年4月の義務化には間に合わない。また、オンライン請求回線の導入とあるが、これは実質的なレセプトオンライン請求の義務化である。国は導入効果として資格喪失後の返戻減少を挙げるが、それは全体の0.27%に過ぎず、診療所は事務負担の強要だけでなく、導入や維持等に多額な費用負担が発生し、メリットは少ない。
様々な問題があることが明らかになる中で、厚労省は導入していない医療機関に対し、基金等からの架電、IDやパスワードの簡易書留による通知を行うなど多額の税金をかけてシステム導入を強引に推し進めようとしている。また、マイナンバーカード取得推進のためにマイナポイント付与に1.8兆円もの費用を投じている。コロナ禍による患者減で経営難に喘ぐ医療機関でオンライン資格確認義務化に対応できない事例が発生し、廃業せざるを得ない状況も予測される。当会は今回の拙速かつ強行なオンライン資格確認導入の義務化と保険証の原則廃止方針の撤回を強く要求する。