政府が今国会に提出していた健康保険証廃止を含むマイナンバー法等改正法案は6月2日、参議院本会議において自民・公明・維新・国民の賛成多数で可決された。これによって、来年秋に現行の健康保険証を廃止し、本来任意取得であるマイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」を実質義務化することになった。皆保険制度を崩壊させ、多くの国民を医療から遠ざけるとともに、情報漏洩の不安を感じさせる愚策と言わざるを得ない。
当会の調査ではカードリーダーを導入している8割の会員のうち、6割でオンライン資格確認ができない等の「トラブルがあった」と回答をしている。現場では初診で「マイナ保険証」による資格確認ができなかった場合、やむを得ず窓口で10 割負担した事例や、手持ちがなく、受診を諦めた事例もみられた。来年秋以降、健康保険証が廃止となった場合には、その場で資格が確認できず、命にかかわる問題が多発する事態が予想される。現行の保険証を存続させることが必要である。
一方、新型コロナウイルス感染症発生から3年以上が経過し、5月8日から「5類感染症」に移行することになった。政府はこれで一区切りをつけた形であるが、新型コロナ感染症が撲滅されたわけではなく、予断を許さない状況である。当会はパンデミック発生時から現在まで歴月で会員医療機関の経営実態調査を行っているが、直近の調査結果をみても回答した4割の会員が未だに受診抑制による患者減が続き、コロナ前には回復していないと回答している。長く続くコロナ禍による診療の疲弊に加えて、円安や相次ぐ物価、人件費高騰で医療機関の経営は厳しく、閉院・廃業を決意せざるを得ない状況がみられる。それらを打開するためにも診療報酬の今期中の再改定に加え、次期改定も大幅な引き上げを強く要求する。
最後に、社会保障が抑制され続ける一方で、軍拡路線が展開されていることは看過し難い。私たちは命を守り平和を願う医師・歯科医師の団体として、軍拡路線に強く反対する。また、国連「核兵器禁止条約」の発効に賛同し、今後も核兵器廃絶に向けた努力を続けていく所存である。
私たちは第52 回定期総会にあたり、今年度も国民皆保険を守り、すべての国民が尊厳を保って幸せに暮らせる社会の実現を目指し、次の事項に全力で取り組むことを決議する。
記
一、 診療報酬の今期中の再改定に加えて、2024 年4月改定の大幅引き上げと不合理是正を行うこと
一、 健康保険証の廃止を撤回するとともに、オンライン資格確認、レセプトオンライン請求の実質義務化を撤回すること
一、 保険でより良い歯科医療を実現するため、歯科医療費の総枠拡大を行い、歯科技工士や歯科衛生士等の歯科医療従事者の待遇改善を図ること
一、 安全に医療を提供するため、医療従事者の労働環境の改善を図ること
一、 国庫負担を増やし、過重な保険料負担や窓口一部負担を大幅に軽減し、新たな患者負担増を行わないこと
一、 審査、指導、監査については保険医の人権と裁量権を尊重すること
一、 感染症、災害、救急、周産期、小児、難病、障害者等の行政的医療が維持できなくなる組織改革はやめ、公立、公的病院の拡充等の支援を行うこと
一、 地域環境の変化による新興、再興感染症に対する体制を充実すること
一、 世界標準のワクチンを希望するすべての人たちに、無料で安心して接種できる体制を構築すること
一、 消費税損税となっている保険医療にゼロ税率を適用すること
一、原発ゼロをめざし、再生可能エネルギー中心の政策に転換すること
一、唯一の戦争被爆国として核兵器禁止条約を批准すること
一、憲法9 条、25 条などを有する日本国憲法を遵守すること