声明・主張・談話
- 2019.01.17 【会長声明】「妊婦加算」突然の凍結に対する見解
2018年4月の診療報酬改定で新設された初・再診料の妊婦加算、産科・産婦人科特例加算が2019年1月1日から厚生労働大臣が定める日まで算定できないとされ、事実上「凍結」された。これらの点数は日本産科婦人科医会等が長年議論し要望し、中医協でも議論され「妊婦の診察に積極的な医療機関を増やし、妊婦がより一層安心して医療を受けられる体制の構築」を目的に新設された。
妊婦への外来診療にあたっては投薬、検査方法の選択など、特別な配慮が必要であり、診療報酬での評価は当然である。また、今回は医科のみが対象であったが、麻酔や観血的処置など歯科においても妊娠の継続や胎児への細心の配慮が必要で、評価の対象とすべきであったと考える。そうした点から医科歯科共に加算ではなく、基本診療料に組み込む評価とすべきであろう。
4月施行後、コンタクトレンズの処方等、特段の配慮が必要ではないケースや説明がないままでの徴収があり、SNSを中心に「なぜ妊婦の経済的負担を増やすのか」「妊婦税だ」等の苦情が相次いだ。批判を受け、厚労省も算定の要件の厳格化を示すなど、事態の収拾を図っていたが、自民党の厚生労働部会において根拠を示さないまま覆された。この流れはこれまでの診療報酬の改廃プロセスからみても異例であり、容認することはできない。
そもそも診療報酬改定の告示から施行までの期間があまりにも短く、医療者が充分理解しないまま診療せざるをえないことも改めるべきである。少なくとも半年は周知期間を確保し、医療機関への負担も考慮し、患者へ適切な説明ができる環境を整備すべきである。
今回の「妊婦加算」問題の背景にあるのは、3割という窓口負担の高さにある。加えて、妊娠中は妊婦健診費用も保険が適用にならないため、通常の内容でも1回5000~1万5000円程度かかり、総額で7万~15万円の負担となっている。そこで、2009年4月から国は原則14回まで妊婦健診費無料化を打ち出しているが、超音波検査など特別な検査は通常は補助の対象とならない。その為、一般的な助成があっても5~10万円程度費用がかかり、経済的な負担は重く、妊婦加算にも敏感に反応したことも頷ける。こうした状況を鑑みて、今後は国の責任で乳幼児医療費助成制度と併せ、妊娠期の医療費助成制度の創設が求められる。
今後、国は有識者会議を設け「妊婦が安心できる医療提供体制の充実や健康管理の推進を含めた総合的な支援の内容(中医協答申)」を議論していく予定である。今回の妊婦加算「凍結」の問題を契機に、窓口負担の軽減だけでなく、妊婦のさまざまな負担軽減策を検討する必要がある。そのためにも、妊婦さんにかかわるすべての関係者が、安心して子どもを生み育てられる環境の実現に向けて、様々な機会にこうした問題について意見を出し合い、現状を把握し、具体的な対案を国や関係機関に発信していくことが重要となっていると考える。
- 2018.11.09 「MMRワクチン告発」日本上映中止と今後の取り組みについて(声明)
各 位
「ワクチン防ぐことができる病気はワクチンで防ぐ」これは世界の常識です。
しかし、1993年のMMRワクチン接種中止以降、わが国は20年もの空白が生じ、諸外国に有効なワクチンがあっても導入されず、多くの子どもたちが命を落としたり、重い後遺症で苦しんでいます。そこで私たちは2009年から「希望するすべての子どもたちにワクチンを」とパレードを毎年開催し、一日も早く、世界標準のワクチンが無料で接種でき、命と健康が守られる社会をめざして賛同団体の皆さんと共に取組んできました。
今回、2018年11月1日までの期間、映画「MMRワクチン告発」の公式ホームページには「日本の状況について」(出所:Cinema Libre Studio社)と題された動画が掲載されていました。動画では、37秒から数秒間、2014年に行ったワクチンパレードの写真と共に「1993年、国民の反対によりMMRワクチンは正式に中止されます」との字幕が映し出されます。真逆ともいえる字幕をつけたユナイティッドピープル株式会社(以下、「配給元」)へ強く抗議を行うとともに、ワクチンに対する誤解を広げ、国民の健康を損ねる結果へとつながる、映画「MMRワクチン告発」の上映中止を求め、通告する準備を進めていました。
そうした中、11月7日夜、配給元の公式ホームページに「映画『MMRワクチン告発』公開中止」を知らせる情報が掲載されました(http://unitedpeople.jp/vaxxed/)。そこでは公開準備を進める中で1993年当時の日本の接種状況とアンドリュー・ウェイクフィールド監督側の説明に矛盾がありメッセージ追加等で対応してきた経過を説明。また、小児科医などと面談し、医学的な指摘を受け、「監督の主張は成り立たず、このような問題点が判明した以上、本作の劇場公開は適切ではないと判断し、劇場公開を取りやめる」と述べました。また、画像の無断掲載や字幕の誤りへの謝罪と当該画像をホームページから削除したとの記載もあったため、準備していた通告は行わず、国民の命と健康を守るための配給元の迅速な決断であったと歓迎します。
ただ、日本語版で作成されたこの動画「日本状況について」(出所:Cinema Libre Studio社)は未だ米国の制作会社にあり、配給元をかえて公開されることを危惧しています。引き続き、当該動画の削除と上映中止を要請していきます。
最後に、私たちはワクチンで防げる病気から国民を守るために、ワクチンに対して誤解を招くような情報や動きを監視し、予防接種行政が一歩でも前に進めるように、国民と共に取り組みを積み重ねていく所存です。以上
- 2018.06.10 第47回千葉県保険医協会総会決議
今年4月の診療報酬改定は、全体で1.19%のマイナス改定となった。同時に行なわれた介護報酬改定も0.54%の引き上げにとどまった。今次改定は社会保障費を抑制するとした「経済・財政再生計画」にそったものであると言える。
安倍首相は経済財政諮問会議で今後も社会保障費を抑制する考えを示している。さらに、後期高齢者医療制度の患者窓口負担を現行の1割から2割への引き上げや受診時定額負担の導入などを具体化しようとしている。
政府はこの間わが国の財政赤字の原因を社会保障費に求めている。財政赤字の原因は税収不足であり、とりわけ法人税の税率引き下げにより法人税収は減少している。大企業では減税政策も一因として内部留保を400兆円も積み上げている。今必要なことは大企業や富裕層への応分の負担を求め、社会保障費を抜本的に増やすことが国民の願いである。
また、安倍首相は自民党大会で憲法に自衛隊を明記するなどとする憲法9条の改定に強い意欲を示している。
私たちは医師・歯科医師として国民のいのちと健康を蔑ろにする医療・社会保障制度の改悪に反対する。税・保険料の累進性を高め、医療・社会保障制度を充実させ所得の再分配機能を強化することにより国民経済を持続的に発展させる政策への転換を強く求める。
第47回定期総会にあたり、次の事項の実現をめざし全力で取り組むことを決議する。記
一、診療報酬・介護報酬を引き上げ、不合理是正を行うこと。
一、保険医の人権と裁量権を尊重し、保険診療の制限や萎縮を強いる審査、指導、監査を行わないこと。
一、新たな患者負担増を行わず、国庫負担を増やすことや応能原則による負担などによって患者の窓口負担を大幅に軽減すること。
一、保険でより良い歯科医療を実現するため、歯科医療の保険適用範囲の拡大と歯科技工士などの歯科医療従事者の待遇改善をはかること。
一、世界標準のワクチンを希望するすべての人たちに無料で安心して接種できる体制を構築すること。
一、来年の消費税率10%の引き上げを中止し、医療にはゼロ税率を適用すること。
一、自然災害で被災したすべての医療機関や介護・福祉施設の再建と併せて住民生活の再建のために公的支援を拡充すること。
一、再生可能エネルギー中心の政策に転換し、原発再稼働をやめ原発ゼロをめざすこと。
一、憲法9条・25条などの日本国憲法を遵守すること。
一、唯一の戦争被爆国として核兵器禁止条約を批准すること。
- 2017.11.08 2018年4月実施の医療・介護同時改定における診療報酬・介護報酬の引き上げと患者負担の軽減の実現を求める要請書
内閣総理大臣 安倍 晋三 様
財務大臣 麻生 太郎 様
厚生労働大臣 加藤 勝信 様2018年度の予算編成に向け、社会保障を巡る議論が本格的に開始されました。財務省は来年度診療報酬改定について財政制度等審議会(財務省の諮問機関)で「2%台半ば以上のマイナス改定が必要」と主張しました。厚生労働省も概算要求において社会保障費の6,300億円の自然増を見込み、それを5,000億円に圧縮するため1,300億円の削減を検討していました。その削減対象として診療報酬や介護報酬などが上げられています。
高齢化や医療技術の発展に伴い医療費が増えていくことは当然のことです。
診療報酬は2002年以降マイナス改定が続き、この15年間でおよそ10%まで引き下げられました。医療費の抑制・削減の中では、医師歯科医師の技術料はほとんど増えていません。医師歯科医師をはじめとする医療従事者による医療行為を正当に評価するとともに、医療現場の疲弊している経営状況を直視し診療所や病院それぞれの医療施設の経営を支える診療報酬の引き上げを強く求めます。
また、医療・介護における患者窓口負担増の施策がこの間進められてきました。今後はさらに、75歳以上の2割負担、かかりつけ医普及を理由とした受診時定額負担、市販類似薬の給付見直しを含めた薬剤自己負担等の引き上げなどが計画されています。この間、私たちが実施した「2016年受診実態調査」では約4割の医療機関で経済的な理由から患者の治療が中断していることが明らかになりました。広がる所得や健康格差、貧困問題が深刻化する中で自己負担が増えることによって受診を抑制し適切な医療や介護を受けられなくなる患者等は少なくありません。
以上のことから、2018年度診療報酬・介護報酬の同時改定に向けて、基本診療料を中心とした診療報酬と介護事業所の経営実態と介護職員の待遇改善等のための介護報酬の引き上げと併せて、患者負担の軽減を要望します。
- 2017.10.19 歯科の院内感染対策に関わる対策を国に求めます(会長談話)
2017年の厚生労働省研究班の調査で全国の歯科医療機関の半数近くが、歯牙切削器具を患者ごとに交換せずに使い回しをしている可能性があることが7月2日付けの読売新聞で報道されました。報道によれば5年前の調査では7割だった使い回しが改善したものの、院内感染のリスクが浮き彫りになったとしています。今回の報道に関しても保団連では日本歯科医学会のガイドラインに従い、適切な滅菌消毒をしていくことを求めています。
この間、保団連としては歯科の院内感染対策を推進するための啓発冊子の発行や協会でも研修会に取り組んできました。
感染予防対策に係る費用は、日本歯科医療管理学会では「患者1人あたりの院内感染対策費用は総計1,127円に対し、再診料45点と外来環加算4点の490円という隔たりは大きいと言わざるを得ない」と報告しています。さらに厚労省が感染対策を評価したとする「歯科外来診療環境体制加算」(届け出医療機関は全国で25.6%:2017年6月1日時点)は、感染対策を評価したものではなく、偶発症に対する緊急時や医療事故時の対応も課しているものであると同時に、感染予防対策のコストに見合うだけの保障はされていなく、感染予防対策には役に立っていないと言えます。このような状況において歯科診療所の自助努力に頼らざるを得ないのが実態です。
今回の報道での指摘を真摯に受け止め、歯科医療担当者として院内感染防止対策をより一層確実なものにし、安心安全の医療を提供するために努力することが求められています。同時に感染予防対策を改善するためには、国の責任で感染対策に必要な原価計算を行い、診療報酬上で感染予防対策を評価した点数を新設し補償すること、さらに各種感染対策に必要な器材の購入などへの助成も併せて強く求めます。